私は大学を中退してから、物書きを志していた時期がありました。
すでにこの業界に身をおいていましたが、立場は派遣社員、まだ無線を生業にする決意はありませんでした。
1990年代、携帯電話が世に普及しはじめた黎明期、若かった私は正社員のお誘いもいただきました。
稀有な機会を無下にしたものだと思うこともあります。
職場環境には恵まれていましたが、無線機器や電波に対する根本的な興味が希薄でした。
自作の原稿は何回か投稿や持込をしましたが鳴かず飛ばず、20代も暮れなずむころに日の目を見ることなきペンを置きました。
遅ればせながら「電波」を生業にする覚悟を決め、私にとって高い峰である「一陸技」獲得を心に誓ったのです。
さて、そうすると電波にいかに向き合うか、生業にするなら心から電波を好きになりたい。
生来私は生命や天体など、自然にまつわるものが好きでした。
ある書物であらゆる物体は固有の周波数を持っているというくだりに出会い、電波は装置のみから生成されるものではなく、普遍的なものだと知りました。
生き物にも天体にも固有周波数がある、そう考えると電波のことをもっと知りたくなったのです。
電波の仕事をしていてとても面白いと思ったのは電波測定のときでした。
目に見えず触れず、感知できない電波が測定によって確認できる、微弱な電力というエネルギーを検知できることは驚異です。
とくに想定値と測定値が一致したときはかすかな感動すら覚えます。
見えなくてもエネルギーが確かに在ることを実感したことは大きな経験でした。
以上、志向を変えるために思考してみた経験のお話でした。
先入観を払拭すれば、世界の見え方は変わります…それがなかなか難しいのですが。